花の下に死す
 「愛しいあなたのために泣いているのに、月に惑わされて泣いているふりをする」


 ……。


 微妙な沈黙の末、


 「何、これ」


 璋子は文を堀河に押し戻した。


 「困るわ、こういうものは」


 そしてあたりを見渡した。


 (確かに噂が広まってはまずい。特に藤原得子のほうには。隙あらば帝を追い落とそうとしている方々にとっては、帝の母であられる璋子さまの醜聞は絶好の口実)


 堀河は今日のところは、文を回収して引き返した。


 (ただ……。度重なる義清どのの恋文に、待賢門院さまが心を動かされているのもまた事実)


 そして何事もなかったかのように、璋子の屋敷では再び穏かな時間が流れ始めた。
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