花の下に死す
 璋子は毎朝女房に起こされ、着替えを施された頃には、食事もきちんと準備されている。


 宴やら物忌み、そして御所での行事などの特別な何かがない限りは、日々屋敷で同じことのくり返し。


 ……先代の帝の妃にして、当代の帝の母。


 この国で一番高貴な女性として、誰もが羨む地位にあるはずなのに。


 堀河は主である待賢門院藤原璋子を幸せだと思ったことは、一度もなかった。


 どれほどの地位を得て、生活に困らないほどの富を手にしていたとしても。


 それが幸せだといえるのだろうか?


 幼い頃に父を亡くし、気がついたら白河院に育てられ、いつしか愛されるようになり。


 そして適齢期になると、世間体を取り繕うためであろうか、白河院に命じられるがままに孫にあたる鳥羽院に嫁がされ、やがては天皇の母となり。


 流されるがままの人生だった。
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