花の下に死す
 堀河は改めて、自らの主である璋子を見つめた。


 間もなく四十に手が届こうというのに、未だに若さと美貌を保っている。


 御簾の隙間から姿を目にしただけで、義清が恋に落ちるのも不思議ではないと堀河は改めて思った。


 この世の者とは思えない、まるでかぐや姫のような……。


 ここはかりそめの止まり木にすぎず、いずれこの手を離れて月に帰ってしまいそうに儚げな。


 (人の喜び悲しみを、璋子さまが分かち合うことはない。それゆえいつまでも時は止まったまま)


 何にも心を動かさず、心も揺れない。


 愛とは自らが与えるものではなく、相手がどれくらい愛してくれるか。


 ……それが璋子が唯一知りうる「愛」。


 一方的に注がれるものでしかない「愛」。


 その見返りのなさが鳥羽院を戸惑わせ、悩ませてきた。


 それが息子である崇徳の人生にも、影を落としていた。
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