花の下に死す
 「待賢門院さま」


 「!」


 院と間違われたことに刺激されたのか、義清はついに声を出した。


 「こうしてお許しなく参上した無礼を、お許しください」


 「あなた、いったい……」


 義清の顔など知らない璋子の表情に、みるみる影がよぎる。


 「誰か、堀河……!」


 璋子はここから逃れようと、近くにいるであろう堀河の名を呼んだ。


 「お待ちくださいませ」


 即座に義清は璋子の手首を掴んだ。


 「誰、あなた。どうして……」


 「お許しください」


 「許すも何も……。誰なの? どうやってここへ」


 「私は……。かねてから待賢門院さまをお慕いしていた者です」


 「え……」


 「幾度となく懸想文(恋文)をお届けしたのですが、文にしたためるだけではこの気持ちを抑えきれなくて、今宵こうして忍んで来てしまいました」


 「文……?」


 当然、璋子には心当たりがあった。


 先日来堀河が、自分を慕う武士の若者がいると告げて、文をよこし続けていた。


 (では、その武士の若者とやらが……?)


 璋子ははじめて、義清をまっすぐに見つめた。
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