花の下に死す
六、禁断の逢瀬
***
「璋子(たまこ)さま」
佐藤義清(さとう のりきよ)はついに、愛しい人の名前を口にした。
身分差もある年上の女。
しかもこの国で一番高貴な女性であり、「待賢門院(たいけんもんいん)さま」と呼ばなくてはならない。
気安く「璋子」の名を口にできるのは、白河院亡き今は鳥羽院くらいだろう。
……それはともかく。
想いを遂げた後、義清はなおも璋子を抱きしめ続けた。
優しくその名を囁き、唇を重ねる。
だが璋子は、義清の熱い想いには何一つ応えない。
ただ涙を流し、顔を背けるのみ。
「もう泣かないでください」
璋子の両頬を両手で押さえ、再び唇を奪った。
「愛するがゆえに、力ずくであなたを奪ってしまいました。お許しください」
当然返ってくる言葉はない。
「璋子さま」
見返りを求めて、抱きしめる腕の力を強める。
「痛い……」
璋子の涙に濡れた顔が苦痛にゆがんだ。
「あ、お許しください。愛しさが募るあまり」
強く抱き過ぎたようだ。
「あんまりだわ。 どうしてこんなことをしたの……!」
突然璋子は義清を責めた。
「璋子(たまこ)さま」
佐藤義清(さとう のりきよ)はついに、愛しい人の名前を口にした。
身分差もある年上の女。
しかもこの国で一番高貴な女性であり、「待賢門院(たいけんもんいん)さま」と呼ばなくてはならない。
気安く「璋子」の名を口にできるのは、白河院亡き今は鳥羽院くらいだろう。
……それはともかく。
想いを遂げた後、義清はなおも璋子を抱きしめ続けた。
優しくその名を囁き、唇を重ねる。
だが璋子は、義清の熱い想いには何一つ応えない。
ただ涙を流し、顔を背けるのみ。
「もう泣かないでください」
璋子の両頬を両手で押さえ、再び唇を奪った。
「愛するがゆえに、力ずくであなたを奪ってしまいました。お許しください」
当然返ってくる言葉はない。
「璋子さま」
見返りを求めて、抱きしめる腕の力を強める。
「痛い……」
璋子の涙に濡れた顔が苦痛にゆがんだ。
「あ、お許しください。愛しさが募るあまり」
強く抱き過ぎたようだ。
「あんまりだわ。 どうしてこんなことをしたの……!」
突然璋子は義清を責めた。