花の下に死す
 「ひどすぎるわ、こんなこと……。何が目的なの」


 「目的?」


 義清は璋子の言葉の意味が掴めなかった。


 「もしかして藤原得子(ふじわらのなりこ)の差し金なの? 私を追い落とすために、あなたを」


 「なぜそのようにお考えになるのです。私はただ、璋子さまをお慕い申し上げるがゆえ」


 「慕っているのならどうして、私を困らせるようなことをするの」


 「そのようなつもりなどありません。璋子さまへの想いが止むことなく、危険を冒して会いに来たまでです」


 「……」


 「下心だけで、命を賭けてまでこのようなことできるはずもありましょうか」


 再び璋子のたおやかな体を引き寄せた。


 「やめて……」


 ただ泣きながら拒むだけの女。


 一方的な愛情表現。


 「待賢門院さま。先ほど私は命を賭けてもと申しましたが、あなたを残しては死ぬことはやはり惜しいのです」


 どんなにつよく愛しても、璋子は応えてなどくれない。


 手ごたえのない愛でありながら、義清は抜け出すことのできない深い闇に迷い込んでしまった。
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