花の下に死す
***


 その日から佐藤義清の人生は一変した。


 「おかえりなさいませ、殿」


 夜遅く帰宅した義清を、妻が迎えた。


 「まだ起きていたのか。もう寝ていてくれてもよかったのに。こんなに遅くまで」


 「最近夜勤が多くて、帰宅できないことも多く。たまにはゆっくりお話しなどしたいと思いまして」


 「すまないな。昨今畿内の僧どもが無理難題を吹っかけて、都に乱入してくることが頻繁で。ゆえに鳥羽院より、絶え間ない御所周辺の警護を命じられて」


 「政情不安定な日々が続きますからね。お役目ご苦労様です」


 幼い娘はすでに寝ていた。


 妻はもっと話をしたそうだったが、義清は仕事の疲れを理由に妻の話もろくにきかず、さっさと床に伏してしまった。


 寂しそうな妻の表情を、義清は見て見ぬふりをした。


 ……最近家族には、嘘に嘘を重ねている。


 北面武士としての任務が過多なのは事実。


 だがろくに家に帰られないほどではない。


 待賢門院藤原璋子の元に、入り浸っているのだ。
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