花の下に死す
 「今、璋子さまをお慰めできるのは、私以外に誰がいるというのだ」


 「ですが……」


 問答を続けているうちに、二人は璋子の寝室の入り口にたどり着いていた。


 「私とお前の間柄だ。これからもよろしく頼むよ」


 「……!」


 義清は堀河に軽く唇を重ねた。


 突然のことに驚く堀河。


 「では」


 その隙に璋子の寝所へと入り込もうとしたのだが、


 「お待ちなさい」


 堀河が義清を呼び止めた。


 「どうした?」


 「伊勢の海阿漕(あこぎ)の浦に引く網もたびかさなれば人もこそ知れ」


 「あこぎの浦?」


 突然歌を読んだ堀河に、義清は聞き返した。


 「なるほどな。伊勢の阿漕の浦という地は、禁漁区域。そこで密漁を繰り返せば、いつしかバレるということか」


 つまり、今のまま璋子の元へ頻繁に通い続ければ、いつしか誰かに勘付かれたり噂になってしまうとのこと。


 義清は頷きながら笑みを浮かべた。


 「ご忠告どうも。万が一の時はお前が言い訳を考えてくれよ」


 「義清どの!」


 「じゃあな」


 義清は戸を閉めた。
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