花の下に死す
 「璋子さま」


 先ほどの堀河の不安げなまなざしと、あの歌。


 これ以上深入りするなとの忠告。


 しかし堀河の言葉を無視して、義清は強く璋子を抱きしめた。


 この世に無数存在する、二人の中を邪魔するもの全てをかき消すかのように。


 だが。


 今宵はどういうわけか、罪悪感に苛まれる夜だった。


 表に吹きすさぶ、物寂しげな木枯らしのせいだろうか。


 「……」


 愛しい人を抱いているのに、どうしてものめり込めない。


 いつもなら際限ないほどに、体の奥から情熱が込み上げてくるのに……。


 これでは楽しめないと思い、出直すことにした。


 「……もう帰るの?」


 眠りに落ちたのを確かめて、床を離れたつもりだったのに。


 璋子は起きていて、部屋を出ようとする義清を呼び止めた。
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