花の下に死す
 「璋子さま」


 ようやく追いつき、義清は璋子の手首を掴んだ。


 それでもなお璋子は、前へ進もうとする。


 庭園のさらに奥へ。


 その瞳は夢うつつ。


 「璋子」


 両肩を押さえ、細い体を揺さぶっても、璋子は我に返らない。


 「何をなさっておいでです。こんな夜中に」


 今にも泣き出しそうな空。


 雲の中から雷鳴が聞こえている。


 璋子は雷を恐れることなく、魂が抜けたようにさまよい続ける。


 「璋子」


 いつしか義清は、璋子を呼び捨てで呼んでいた。


 この国で一番高貴な女性であるにもかかわらず。


 「……」


 璋子の魂を呼び戻そうと、義清は強引に唇を重ねた。


 情熱的な口づけの中、璋子の瞳に徐々に生気が戻り始める。
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