花の下に死す
 白河法皇は鳥羽院の祖父で、院政を敷き五十年余りに渡って朝廷で実権を掌握していた。


 孫である鳥羽院は幼くして天皇として即位したが、実権など全くなく、形だけの天皇だった。


 ようやく権力を手にしたのは、大治4年(1129年)の夏に白河法皇が死して後。


 強大な権力者であった祖父を恐れ、憎んでいた孫は祖父の死後、祖父の業績を次々と覆すような行動に転じた。


 そんな祖父の命により中宮に迎えていたのが、藤原璋子。


 祖父からの絶え間ない圧力の象徴として、彼女にもまた憎しみのような感情を覚えたのかもしれない。


 あてつけるかのように、若い女を寵愛して。


 義清はぼんやりと、そんなふうに推測していた。


 「義清、そろそろ始まるぞ」


 清盛に呼ばれ、義清は我に返った。


 この日藤原璋子の邸宅では、春の歌会が催されることになっていた。


 庭に植えられた桜の木々は、ちょうど満開。


 庭園にて警護を務める義清の目の前に、時折桜の花びらが舞っていた。
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