花の下に死す
 璋子の言葉に、義清は何も答えることができなかった。


 噂では聞いていた。


 誰もがそれを真実とみなしていた。


 第一皇子でありながら、徹頭徹尾父である鳥羽院に疎んじられた崇徳帝。


 その謎を解く鍵として、崇徳帝は実は鳥羽院の実子などではなく、妃である璋子が鳥羽院の祖父・白河院と密通して生まれた子であるとの噂がまことしやかに囁かれていた。


 いつしか鳥羽院もその事実をご存知になり、衝撃を受け、崇徳帝と璋子を遠ざけるようになったと。


 あまりにおぞましい話ゆえ、義清は信じたくはなかったのだが……。


 「私は院のおそばを離れたくなかったのに。世間体が悪いからって、院は私を無理やり鳥羽院の元へ。私は寂しくてせつなくて、毎日泣き暮らしたわ」


 「……」


 「白河院がみまかられた時、私もお供すればよかったわ。この世は私には、仮の住まいでしかないのだから。何の意味もない」


 「璋子さま」


 この世に留まることに意味がないと言い放つ璋子を、強く抱いた。


 「意味は……存在します。私のためにいつまでも、あなたらしくいてください」
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