花の下に死す
 「私らしく?」


 「白河院を未だに慕われているのは、仕方のないこと。ですがもう院は、この世にはおられません。ゆえにこれからは私が、院に代わってあなたを愛し続けます」


 「でも私、院を忘れるなんてできない」


 「今はそれでも構いません。時が重なるにつれて、少しずつ私の存在が増していくのならば」


 「……」


 「璋子さま、この世の何よりも愛しております」


 そう宣言して、抱きしめる腕の力を強めた。


 誰かが偶然通りかかるかもしれないなどという不安などかなぐり捨て、庭園の中央でしばし抱き合っていた。


 空は依然として暗く、雷鳴が響いている。


 少し風が出てきた。


 木々の枝を揺らし、満開の桜の花びらを散らし始めた。


 散り急ぐ花びらの中、二人は固く抱き合い続けたまま。


 そして……貪るように熱い口づけ。


 もはやこの世に、二人以外など何も存在しないかのように。
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