花の下に死す
 このままその細い体を奪って、何のしがらみもない世界へといっそ逃れてしまいたい。


 そんな衝動にも駆られた。


 狂おしいほどに求め続けて……。


 「ふふ……。宴の余興に、面白いものを見させていただいたわ」


 突然庭木の陰から女の声が響いてきて、義清は驚いて振り返った。


 美しい、若い女がそこにはいた。


 気位が高そうで、気の強そうな。


 「あ……」


 璋子の顔色が変ったのを、義清は見逃さなかった。


 この女はいったい?


 「さすが、不義密通が趣味なお方。今度は若い男をお連れ込みになるとは」


 璋子を見下したように笑う。


 無礼だと義清は思ったが、何か言い返せば璋子の立場を悪くしそうで、ためらっていた。


 「男なら誰でもいいのかしら。よりにもよって下劣な武士と」


 「……!」


 むっとして義清がその女を見上げた瞬間だった。


 「およしなさい! 得子(なりこ)」


 璋子が珍しく声を荒げた。


 (なんだって……)


 義清は驚きを隠せない。


 そこにいるのは、藤原得子。


 鳥羽院の側室で、今最も寵愛を受けている女……!
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