花の下に死す
 「おい、あの女。美人だな」


 清盛が義清に告げる。


 「堀河(ほりかわ)さまだ」


 「知り合いか? 義清」


 「いや、名前を知っているだけ。著名な女流歌人だから」


 藤原璋子の最もそばに仕え、この日の歌会を取り仕切っている堀河。


 歌人としても有名で、すでに数多くの歌を発表している。


 年の頃は……璋子よりはかなり若いが、義清たちよりはだいぶ年上。


 「美人だけど、キツそうだな」


 「でもさすが、待賢門院さまの懐刀とも称される女房だ」


 「義清はああいう女が好みか?」


 「まさか。相手になんかされないだろ」


 「確かに。宮廷の女房たちが俺らを見る目は、蔑んだまなざしばかりだ」


 璋子に仕える女房たちが、歌の詠み合いに興じている間。


 義清は清盛と、庭園の片隅でコソコソ話を続けていた。


 この邸宅と歌会の主である、藤原璋子は。


 御簾の陰に潜んだまま、決して武士たちの前には姿を見せなかった。
< 9 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop