花の下に死す
十、遁世
***
「お帰りなさいませ、殿」
帰宅したのは夜更けにもかかわらず、妻は起きて義清を待っていた。
義清は決意を胸に秘めたまま、部屋まで進んだ。
「……お前に話すことがある」
「はい」
「私は……、今日を限りに出家する」
妻の目を見ることができないまま、義清は告げた。
「は?」
予想もしない言葉、妻は理解できていないようだ。
「今まで世話になった」
「……お酒を召し上がったのですか? 悪い冗談はおやめくださいませ」
「本気だ」
「……」
義清の目が全く笑っていないのを見て、ようやく妻は事の重大さを悟った。
「この家はどうなさるのですか。お仕事は」
「家のことは我が弟に頼んでおく。佐藤家の家督は弟に譲る。お前は縁あらば、誰か別の男と再婚し、幸せになるがいい」
「お気は確かですか?」
「私は狂っている。狂っているがゆえ、北面武士の職も解かれた」
「何ですって……!」
「私はクビになったんだ」
状況が把握できない妻は、混乱して顔面蒼白になっている。
「お帰りなさいませ、殿」
帰宅したのは夜更けにもかかわらず、妻は起きて義清を待っていた。
義清は決意を胸に秘めたまま、部屋まで進んだ。
「……お前に話すことがある」
「はい」
「私は……、今日を限りに出家する」
妻の目を見ることができないまま、義清は告げた。
「は?」
予想もしない言葉、妻は理解できていないようだ。
「今まで世話になった」
「……お酒を召し上がったのですか? 悪い冗談はおやめくださいませ」
「本気だ」
「……」
義清の目が全く笑っていないのを見て、ようやく妻は事の重大さを悟った。
「この家はどうなさるのですか。お仕事は」
「家のことは我が弟に頼んでおく。佐藤家の家督は弟に譲る。お前は縁あらば、誰か別の男と再婚し、幸せになるがいい」
「お気は確かですか?」
「私は狂っている。狂っているがゆえ、北面武士の職も解かれた」
「何ですって……!」
「私はクビになったんだ」
状況が把握できない妻は、混乱して顔面蒼白になっている。