花の下に死す
 「では先を急ぐゆえ失礼する。今まで世話になった。達者で暮らすがいい」


 「と、殿。お待ちください。急にそんなこと。お考え直しください」


 「無理なのだ。すまぬ」


 妻の嘆願をも振り切り、義清は庭から出て行こうとした。


 「ちちうえ……?」


 「!」


 三歳の娘が現れた。


 たまたま両親の騒ぎを聞きつけて、目を覚まして寄って来たようだ。


 最近全然義清が構ってやらなかったため、かなり寂しい思いをしていた。


 「父上をお止めして! 大変なの!」


 妻が娘に命じると、娘はわけが分からぬまま義清の着物の裾を掴んだ。


 「離せ!」


 義清は娘を突き飛ばす結果となった。


 泣き出した娘をあやしに妻が離れた隙に、義清は庭へと飛び出した。


 そして手にしていた小刀で髷を切り、切った髪を軒先に残して、義清は暗闇の中に消えていった。
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