不器用な俺の恋
【結の気持ち】


両目が見える

手術してよかった

これで、皆の所へ戻れる

運動とか飛行機とか、色々禁止されたけど

生きている

これからも、生きていける

皆と卒業出来る

左の耳の後ろ側、手術の傷跡を触る

酷かった頭痛もない

鼻血もない

食欲も出てきた

めまいもない

少しずつ起きてる時間を増やしている

始め8種類だった薬、多いときは20以上あった

今は、5種類


念のため、まだ無菌室にいる

中のビニールハウスみたいなのは外された

部屋の中なら勝手に動いていい

朝起きたら、自分でカーテンを開け

窓の外を見る


ただそれだけで、満足した


だけど…今朝は、起き上がることも

声を出すことも出来ない

体が固まったみたいに動かない

息をするのが辛い

酸素マスクとか、心電図とか

まるで、死ぬみたい…


お医者さんが

「大丈夫!!風邪だね!」

って…風邪でこんなに弱るの?

抵抗力ないってこういうことなのね


寝ては目覚めの繰り返しをした


少し楽になった


あたしは、この部屋からもう出れ無いかも


弱気になった

看護婦さんが入って来て

廊下側のカーテンを開けた


「七瀬さん!お客様よ!廊下向ける?」


重く、きしむ顔を少しずつ廊下に向ける


薫…


元気な時に会いたかった…

こんな弱気な時に、何でよ…

泣いちゃうじゃん…

体動かないから、泣いたって涙も拭けない

薫のばか!


「昨日まで、部屋中歩いて元気だったけど風邪だから、ご心配なくって言ったから
そうそう、クラスメイトからって
たくさん持って来たわよ!
そこ、置いとくからね!」

看護婦さんが涙を拭いてくれた

口をパクパク動かすのがやっとだった

「ありがとうって伝えたらいい?」

口の動きで看護婦さんに伝わった

薫は、あたしに向かって手を振ってくれていた

もう、会えないような気がして

カーテンが閉まってからも

涙が止まらなかった




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