セルフィシュラブ




前だけを向いて走っていた私は当たった衝動だけを感じ取る。鞄が月岡先生のどこに当たったかは定かではない。



「い、…って、」



弱々しい声。たぶん顔かどこかに当たってしまったのだろう。申し訳ないことをしたとは思うけど、こっちにとっては好都合。


痛がってる隙に逃げよう!走って昇降口へ!


と。思えたのは1秒もなかった。




「大人をからかうと痛い目見るよ」

「ひい…!」



低く脅すような声の後。ガシッとしっかり手首を捕まえられる。


逃げ切れない。


こういう時に限って頭が働く。もう走っても抵抗しても逃げ切れないとすぐに理解してしまったのだ。



「やっと捕まえた」

「っ」



大人の男の力。振り解こうにも力で負ける。悔しくて。こんなふしだらな男に捕まったのが悔しくて目に薄っすらと涙が浮かぶ。


キッと唇を噛み締めて睨み付け目線で離してください、と訴えた。



私はとんでもなく腹が立っているというのに月岡先生は無表情を突き通す。腕に力を込めてもその倍の力で握られた。



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