セルフィシュラブ
ドアと仲良く正面衝突することは避けることができた。が、しかし。持っていた本が私がよろけたせいでバサバサと数冊落ちてゆく。
…あーあ。本が。クソ。急にドアを開けるから。
溜め息を落としながらすぐさま拾おうとしゃがみ込んだところで。
「あ、悪い。大丈夫?」
頭上から本当に申し訳なく思ってんのか、と疑いたくなるほど感情の篭っていない声が降ってきた。
反射的に顔を上げてすぐに後悔。
「っ、」
イケメンで女子から専ら人気な月岡先生がいた。
バチ、と目と目が確かに合ってしまって慌てて逸らしても既に遅い。フ、と微かに笑みを零され腕に鳥肌が立った。
「あー、つっきーじゃん」
山根君は馴れ馴れしい呼び方で月岡先生と言葉を交わす。
「あれ山ちゃん。こんなとこ来て何か悪さでもしたの?」
「してねぇよ。ボランティアだっつーの。ボランティア」
「…あ、パシリね」
山根君の持つ本を見てポツリ、と納得したように月岡先生は頷いた。
そんな会話が繰り広げられている間に私は落ちた本をせっせと拾う。
月岡先生と初めて目が合ってしまった。授業中あれだけ存在を気付かれないようにオーラを消していたというのに。
動揺してしまったのだと思う。初めて目が合って動揺、した。積み上げた本に肘が当たって、またバサバサと落ちる。