セルフィシュラブ




「あ、」と短く声を上げ、鈍臭い自分に呆れて再び息を零す。


足元に落ちた本に手を伸ばそうとしたとき。私よりも先にその本に辿り着いた大きな手。


大きく目を開くと私と同じ体勢になっている月岡先生がすぐ近くにいてまた驚いた。



「…っ、…、」



目を伏せてそれを拾う月岡先生。長い睫毛がより際立つ。そのきめ細かい肌も綺麗な鼻もやはり人間離れしている。


苦手、だ。



「ん、」



積み上げた本を私に差し出す。顔を見ないようにありがとうございます、と消え入りそうな声で呟いた。


月岡先生が立ち上がって香った煙草の匂い。大人なその香りは嗅ぎ慣れないものだった。



「気ぃ付けろよー」

「あざしたー」



何事もなく立ち去った月岡先生に軽く頭を下げる山根君。私は開けたままにされたドアに体を滑り込ませ職員室から出た。


その瞬間。コーヒーと煙草の薫りが混じったような不思議な匂いがした。




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