叶う。 Chapter2
そんなピアノに噛り付いて練習を重ねていた、土曜の夕方。
シオンは突然、防音室にやってきた。
どうせ今日も私があの子かどうかの確認にやって来たに違いないシオンを横目に見て、私は舌打ちをした。
そんな私の様子を全く気にする様子もなく、シオンは丁寧にしまわれたヴァイオリンを手に取ると私の横に置かれた椅子に座った。
「クロイツェルが弾けるか?」
シオンが静かにそう言ったので、私は楽譜を開いてその曲を演奏した。
シオンはピアノに合わせて、ヴァイオリンを奏でる。
上品なヴァイオリンの音はとても繊細で、心地よく私の耳に聞こえてくる。
暫くヴァイオリンに触っている姿すら見ていなかったけれど、シオンの演奏は完璧だった。
私はそれに負けないように、しっかりと曲を演奏した。
何でも完璧にこなすシオンは、楽譜を見ずにスラスラとその弦を弾く。
きっと全て頭の中に入っているんだろうけれど、私はいつもそれが不思議で仕方なかった。
シオンぐらい頭が良ければ、私の脳味噌の倍くらいの脳が詰まっていてもおかしくないんじゃないかと思う。
だけれどシオンの顔は平均よりも小さいのだから、その謎は益々深まるばかりだった。