叶う。 Chapter2
夢中でピアノに向かっていると、静かに防音室の扉が開いた。
私は鍵盤から指を離して振り返った。
ドアの近くには、すっかり綺麗なお仕事モードになったママが優しく笑って私を見つめてた。
「あまり、無理しないでね。」
ママは私に近付くと、私の頭の天辺に優しくキスをした。
「グランプリは気にしなくて良いのよ。」
最近の私の異常な程の執着心に、ママは会うたびに心配そうにそんな事を言う。
「うん、大丈夫だよ!出来るだけ頑張りたいの。」
私がそう言うと、ママはいつもの優しい顔で私をじっと見つめた。
「たまには息抜きしなきゃ駄目よ。」
そう言って、私の髪を優しく撫でる。
「大丈夫もう少ししたら、和也とご飯食べに行って来るから。」
私が笑顔でそう言うと、ママもにっこりと笑った。
「それなら良いわね。デート楽しんで来て頂戴。一条君に宜しく伝えておいてね。」
ママはそう言って、もう一度私の髪を優しく撫でると防音室を出て行った。
壁に掛けられた時計はもう少しで5時になる時間だったから、きっとママは仕事に向かったんだろう。
和也との約束は6時だから、私もそろそろ支度をしなくちゃいけない。
帰ってもきっと練習するだろうと思った私は、楽譜も片付けずにそのまま防音室を出た。