叶う。 Chapter2
「なんか、男物の香水の匂いがする。」
和也はそう言って、少し困った顔をした。
私は一瞬血の気が引いた。
それは充分に身に覚えがあったからだ。
昨夜のシオンとの営みの後、面倒だったのでシーツも毛布もそのままにしていた事を思い出した。
まさかこんな事態になるとも考えて居なかったし、予想すらしていなかった。
私は焦る心とは裏腹に、努めて冷静に和也に説明した。
「多分、さっき兄が来たからかも。」
「そうなの?」
「うん、出掛ける前に。」
「そっか。どっちのお兄さん?」
「一番上の兄だよ。」
私がそう言って和也を見ると、和也は私をじっと見つめていた。
いつもだったら、その綺麗な瞳に見つめられる事が何よりも幸せに感じるのに、何故だか全てを見透かされているような気がして、私は咄嗟に視線をそらした。
「お砂糖とミルク入れる?」
「ううん、要らないよ。」
和也がそう言ったので、私は自分の分だけ砂糖とミルクをいれてスプーンでかき混ぜた。
いつもなら苦痛に感じない筈の沈黙が、何故だかとても苦痛に感じるのは、きっと私に疚しい気持ちがあるからだろう。
だけれどそれを悟られちゃいけない。
大丈夫、たかが香水の匂いがしたってだけだ。
それならさっきの言い訳で充分に通用するはずだから、余計な事を喋らなきゃ大丈夫。
私はそう考えて、何事もなかったかの様に和也の隣に並んでベッドの端に座った。