叶う。 Chapter2
少し暗くなりかけた夕方の4時過ぎ。
私は先生と最後の打ち合わせと明日の予定を確認してから先生の家を出た。
私は気分が高揚していて、何だか酷く落ち着かなかった。
先生はそんな私にちゃんと気がついていて、今日はもうゆっくり休んで明日に備えるようにと何度も繰り返しそう言った。
私もそれが最善だろうと思った。
朝から休憩は入れても、ずっとピアノに触れていたので正直腕も指も随分と重たくなっていた。
それに多分、もう練習しても無駄だろうと思う。
それくらい必死にやってきた。
12月の冷たい空気を感じながら、私は人で混み合う繁華街に向かってのんびりと歩き始めた。
吐き出す息が真っ白で、私は無意識に両手を擦り合わせた。
そして近くに見える駅ビルに向かって歩きながら、鞄から携帯を取り出した。
携帯の電源をつけて、和也に電話を掛ける。
今日は何時に終わるか分からないと伝えてあったけれど、帰る前にどうしても少しだけ会いたいと言ってくれていたからだった。
私が通話をタッチして電話を掛けると、和也はビックリするくらい早く電話に出た。
「もしもし?」
“お疲れ~、案外早かったね。”
「うん、先生が早く休んで明日に備えてって。」
“そうだね、休んだ方が良いよ、ってか今どこ?”
「ちょっと気分転換で買い物しようかと思って駅ビルに向かってるよ。」
“マジで?ってか一人?”
「・・・うん。」
私がそう言うと、和也は焦ったようにこう言った。