叶う。 Chapter2
マンションの下に着くと、和也は守衛さんの見えない位置まで私を連れて行った。
「ごめん、どうしてもこうしたくて。」
そう言って、いつもよりもぎゅっと私を抱き締めた。
私も和也にぎゅっとしがみつく。
外は寒いけれど、こうして2人で寄り添うとなぜこんなにも温かいのだろうか。
「明日、頑張ってな。」
「・・・・うん。」
私がそう返事をすると、和也はやっと私を離した。
途端に冷たい風が2人の間を吹き抜けていった。
上を見上げると、和也の綺麗な漆黒の瞳と視線が合った。
私は少し背伸びをして目を閉じた。
ちゅっと軽く触れるだけのキスをすると、和也は私の頬を優しく撫でた。
無言で見つめあうだけで、何故かとっても心が落ち着いた。
「・・・遅刻しちゃうよ?」
「だなw」
「明日は和也の為に演奏する。」
「マジで言ってる?めっちゃ嬉しい。」
「多分、ママがビデオ撮影頼んでるから、出来たら見せるよ。」
「そりゃ、楽しみだな!じゃあ、また寝る時にでも連絡するよ。」
「うん。ダンス頑張ってね。」
私はそう言って、もう一度和也に抱きついた。
和也もそっと私を抱き寄せたけれど、時間がないので慌てて私をマンションの入り口まで連れて行った。
「じゃあ、また後でね。」
私は小さく手を振って、和也が見えなくなるまでその後姿を視界にしっかりと記憶した。