叶う。 Chapter2
お風呂にお湯を張って、ゆったりと温まる。
面倒なので、普段はシャワーで簡単に済ませるけれど、今日は気分を落ち着けるラベンダーの入浴剤を入れたお湯に時間をかけて浸かった。
明日の事を考えるとほんの少し憂鬱だけれど、やれるべき事は全てやって来た。
だから、後はどれだけ緊張せずに普段の完璧な演奏が再現出来るかが、優勝を狙える鍵だろうと私はそう考えていた。
私は基本的にあの子と違って、演奏ミスをする事は無いだろう。
だけれど、あれだけ広い会場だと緊張は絶対にするはずだ。
私は湯船に浸かりながら、和也の瞳の色を思い浮かべた。
大丈夫。
ピアノが和也だと思えば良い。
漆黒のピアノと和也の瞳の色を重ね合わせ、私はそんな事を考えた。
我ながらくだらないアイディアだと思ったけれど、それは何故か私の心を安定に導いた。
ラベンダー効果か、和也効果か、良く分からないけれど、お風呂を出る頃には私はすっかり落ち着いていた。
風邪を引かない様に、丁寧に全身を拭いてから少し厚手のパジャマに着替える。
やっぱり寝る前にもう一度だけピアノに触れておこうと思い、私はそのまま防音室に向かう事にした。
だけれどバスルームを出ると何故か廊下でママとばったり会ってしまったので、その場で止められてしまった。
「もう、練習はやめておきなさい。薬を飲んできちんと寝なきゃダメよ。」
ママはそう言って、私をリビングに連れて行った。