叶う。 Chapter2
暫くすると、会場スタッフが入って来た。
そして演奏する順番に私達を誘導し始めた。
2脚ずつ並べられた椅子に、名前を呼ばれた順番に付き添いと一緒に座らなくてはいけない。
順調に名前が呼ばれて、前から順に呼ばれた人達が席に着く。
私が名前を呼ばれたのは19番目だった。
シオンは私の名前が呼ばれると目を開けて、一緒に自分達の席に向かった。
そして最後の一人が名前を呼ばれると、私は自然とその子に視線を移した。
「神田望さん。」
係りの人がそう呼んだ女の子は、ピンクのドレスに身を包んで随分と余裕のありそうな笑顔で返事をした。
まだあどけなさが残る可愛らしい雰囲気なのに、身に纏う圧倒的なオーラは他の出場者達にも多分分かるだろう。
去年、あの子はこの子に負けたのだ。
だけれど私の記憶にも、この子の演奏は完璧だった事がまだ残っている。
グランプリを取れる子は、雰囲気からして尋常じゃないほどの余裕を持っている。
だけれど今回は負けるわけにはいかない。
私は無意識にシオンの手をぎゅっと握り締めた。
シオンはそんな私を励ますような事は一切言ってはくれなかったけれど、突然私の頬にキスをした。
一瞬焦ってしまったけれど、妹を気遣う兄が頬にキスをすることは別に誰に見られても恥ずかしくない事に気付いて、私はにっこり微笑んだ。