叶う。 Chapter2




和也だって若い男だし、レオンじゃないけど取り込み中だったり、するのかもしれない。

少し前の私なら電話に出ない和也にひどくショックを受けていたかもしれないけれど、今の私には和也は癒し程度の存在。

和也の事は好きだけれど、それに夢中になってやるべき事を疎かにする事はもうしない。

発表会が終った今、私はやるべき事をさっさと済ませてしまわなければならない。

その為に必要なのは、和也じゃなくてシオンなのだ。



バスルームで心地よい泡に包まれながら、私はそんな事を考えていた。
何時もより濃くしたメイクは中々落ちてくれなくて、バスルームを上がっても何だか目の回りが若干黒い気がした。

だけれど誰に見られる訳でもないので、私はしっかりとパジャマを着込むとそのままリビングに寄って水を取って、真っ直ぐにシオンの部屋に向かった。

部屋の扉を小さく2回ノックすると、返事すら聞こえて来ないので、私はゆっくりとその扉を開けた。


シオンは机に向かって何か書き物でもしているのか、一瞬だけちらっと私を振り返ったけれど、また机に向かい始めた。

私はそんなシオンを横目で見ながら、ベッドのサイドテーブルに水を置くと、そのままベッドに横になった。

ふかふかのベッドに、シオンの爽やかな香水の匂いがする。

それは眠気を誘うには充分過ぎるほど、私の心を安心させてくれた。

昨日までは、この香水の匂いが鬱陶しくて仕方なかったのに、人間の心とはすごく単純だ。






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