叶う。 Chapter2
シオンは片手で私の両手首を掴むと、頭の上でそれを押し付けるように押さえ付けた。
私はその力の強さに抵抗する気力さえ失った。
「お前の詮索好きにはいい加減うんざりだ。」
シオンは相変わらず抑揚のない声でそう言った。
もう片方の手で私の頬を撫でるようになぞるシオンの冷たい瞳が、私の瞳を捉えた。
「お前に選択肢を2つやろう。1つはアイツと入れ替わって2度と姿を現さないと誓え。もう1つは俺と共に地獄に落ちるか……その代わり、お前の復讐にも手を貸そう…堕ちる所まで、一緒に堕ちるんだ……。」
シオンの氷の様な冷たい瞳が、一瞬だけ何故か寂しそうに歪んだ気がした。
その瞳を見た瞬間、私は気付いてしまった。
シオンは私が思っている以上に、あの子を想っていたのかもしれない。
私は取り返しのつかない事を、してしまったんだ。
何も知らず、何も望まなかったあの子の存在は、きっとそれだけでシオンの心を安定に導いていた。
純粋で、深く干渉もせず、私みたいに好奇心すら欠落していたあの子はきっとシオンにとっての心の拠り所だったのかもしれない。
私はそれを、この目の前の危険な男から奪ってしまった。
だからシオンは、耐えきれなくなって色々な秘密を私に話したのかもしれない。
あの子じゃない私なら、シオンは自分の負の世界へ私を一緒に誘う気で居るのだ。
その世界への切符は、きっと片道切符しか用意されていない。
そしてその世界は一歩でも足を踏み込んだら、もう2度と戻れないに違いない。