叶う。 Chapter2
ママはテーブルに置かれたウィスキーのボトルを開けると、少しだけれど紅茶のカップにそれを注いだ。
私は相変わらず黙ってそれを眺めていた。
「アンナの彼氏が和也君で本当に良かったわ。」
ママは紅茶に混ぜたウィスキーを一気に飲み干すと、静かにそう言った。
ママの過去にどんな事があったのかは分からないけれど、私は何となくだけれどママの態度と言葉で想像出来た気がした。
だけれどママがそれを自分で話すまでは、私は何を言うつもりも聞くつもりもなかった。
ママがご機嫌が悪くなった原因は間違いなく恵令奈だけれど、私はそれに口を出すつもりはなかった。
私が黙っていると、ママはタバコに火をつけながらまたしてもウィスキーをカップに注いだ。
しかも今度はストレートでそれを飲み干すと、またイライラとカップにウィスキーを注いだ。
ママがこうしてお酒を飲む姿を見たことは、今まで数えるほどしかない。
それは大体、寝る前や食事の時に少し嗜む程度だったから、こんなに沢山飲んでいる姿は初めて見た。
私が居ない時や寝ている時なんかは飲んでいたのかもしれないけれど、それでもママは全然酔ってる気配すらなかったから、私が気づかなかっただけかもしれない。
だけれど、今日のママは明らかに酔う為に飲んでいるような気がした。