叶う。 Chapter2
多分、この家で入る最後のお風呂なんだろうと思うと何だか酷く悲しい気持ちになったけれど、私はもう泣く事はなかった。
丁寧に石鹸を泡立てると、それで全身を綺麗に洗った。
お風呂上りのママの匂いを思い出し、小さい頃一緒にお風呂に入った事をなぜか今更になって思い出した。
私はお風呂を上がると、ママのお気に入りの石鹸をあるだけ持って部屋に戻った。
どこで買っているのかすら知らなかったから、なくなる前に調べようと思った。
部屋に戻って鏡台に座ると、顔は相変わらず酷い形相をしていたけれど、何とかメイクを施して人に不快感を与えないくらいまできちんと整えた。
そして色が薄くなってきた髪を丁寧に梳かしつけて、一つに結んだ。
時計を確認すると、約束の時間まであと30分くらいだと思ったその瞬間、何故か玄関の呼び出しベルが鳴った。
それは来客があることを、私に知らせるベルだった。
私はその音に驚いたけれど、直ぐに部屋を出てインターフォンがあるリビングに向かった。
インターフォンの受話器を取ると、直ぐに画面に警備員さんが映る。
「はい?」
私がそう言うと、警備員さんからカメラが切り替わり知らない人物達が映し出された。
“月島さまにお客様です。お父様との事ですがご確認を”
警備員さんにそう言われて、その中心にいる人物をカメラ越しにじっと見つめた。