叶う。 Chapter2
「家は決めてきたぞ、おいお前ら荷物運び出せ。」
ぼーっと見とれていた私をさておき、その人は従えてきた人達にそう指示をだすと、皆一斉に動き出す。
「あ、あの、荷物運び出せって?」
「あ?昨日整理しとけって言ったろ?」
「整理はしてあります、でも今!?」
私が驚いてそう言うと、その人は呆れたように笑った。
「俺はそんなに暇じゃない。それにお前だって早く新しい環境に慣れた方がいいだろ?」
「え?でも・・・」
「マンションの管理人には連絡済みだ。今日中に引越しを終わらせるぞ。あと、ボスから連絡を貰ったんでな。お前が必要な物は全部持って行けと、それからここの鍵は俺が預かる。」
月島省吾という人は、短気なのか手短にそう言って家を指差した。
「貴重品だけ自分で取って来い、そしたらもう行くぞ。」
私はその言葉に、きっとこの人は本気で言っているのだと思った。
それはあまりに突然で、衝撃的なこの家との別れだった。
私は室内に入ると、貴重品だけを持って中にいる人達に○の貼ってある物だけが必要な物だと告げると、そのまま玄関を出た。
そしてそのまま、月島省吾という謎の人物の元に駆け寄った。
その人は後は任せたと言って、私の肩を抱くと付き人らしき人を2人だけ連れてエレベーターに乗り込んだ。
もっとじっくりお別れをしたかった私は、エレベーターの扉が閉まるまで、ずっと8年住んだ家を眺めた。
だけれど無情にも、それは直ぐに私の視界から消え去った。