叶う。 Chapter2
「もっと心気くせぇ顔してるかと思ったら、お前案外元気だな。」
月島省吾というこの人は、良い人なのか悪い人なのかいまいち判断が付け難い。
柴崎さんみたいに、明らかに目付きで相手を威圧するというよりも、この人はシオンのようにその雰囲気で相手を威圧するタイプだと思った。
だけれどその柔らかい口調が、何だかその雰囲気を優しく思わせる。
「そんなことないです。もう倒れそうですよ、本当に。」
私がそう言うと、クスクスと笑った。
「まぁ、そうだろうな。」
そう言って私の頭にまたその大きな掌をポンと乗せる。
それと同時にエレベーターは1階へと着いた。
月島省吾という人は、エレベーターを降りる瞬間私にこう言った。
「ここからは、俺をお父さんと呼べ。分かったか?」
私はその言葉に大人しく頷いた。
今日の警備員さんは残念ながら岸谷さんではなかった。
最後の挨拶を出来ない事がなんだか悲しかったけれど、私は黙ったままその人に連れられて近くに止まっている高級車に向かった。
車に乗る前に、私はもう一度だけマンションを見上げた。
もう2度と、あの場所に戻る事が出来ない事が私の涙腺を刺激したけれど、月島省吾はそんな私を無理やり車の後部座席に押し込むと、自分もその隣に乗り込んだ。
せめてもう少しくらい見せて欲しいと文句を言いたい気分だったけれど、月島省吾は冷たい声でこう言った。
「過去を思い出すより、未来を夢見よ。」
「・・・え?」
「いい言葉だろ?俺が小学校2年の時に考えたんだぜ。」
そう言ってニヤリと笑った。