叶う。 Chapter2
私は何だか馬鹿にされているような気分になったけれど、思わず笑ってしまった。
「何処に行きますか?」
運転席に座った強面の男が、月島省吾にそう聞くとやっぱり短くこう言った。
「海のとこで飯食う。」
「承知しました。」
私は食事なんかしている場合じゃないと思ったけれど、一応父親であるこの人に逆らう気はなかった。
万が一怒らせたら、きっと私はまた住む場所すらなくなると思ったし、何よりも何故かこの人は怒らせてはいけない人だと、心が警告を発していたからだ。
車から見える景色を私はぼーっと眺めていた。
何だか酷く身体がだるい。
ぼーっと外を眺めている私に、突然隣から私の膝に新聞がポンっと飛んできた。
目線を上げて月島省吾を見上げると、顔は笑っていたけれど目は笑っていなかった。
私は畳まれた新聞を開くと、記事に目を通した。
有名音楽大教授自殺か?
昨夜未明、都内の有名音楽大学で講師をしていた角田雅敏教授(58)が、自宅近くの公園で首を吊っているのが発見された。
通報者の証言では発見当時角田教授は公園の木に縄を掛けて首を吊った状態だったという。病院に運ばれたが、既に死亡が確認された。
警察の発表によれば角田教授の自宅からは遺書が見つかっており、警察では自殺と事故の両面で捜査を開始した。
しかし、遺書の内容や匿名者の証言などから角田教授は以前より度々、少女買春を目的とした暴行を繰返していた可能性があり、罪の意識に苛まれていたのではないかとの噂があり、警察はそれについても詳しく捜査する方針であると発表した。