叶う。 Chapter2
「行くぞ。」
そう言われたので、私は大人しく車の後部座席に乗り込んだ。
「そろそろ良いだろう、お前の新居に行くか?」
何だか名残惜しい気分がほんの少ししたけれど、私は黙って頷いた。
これから私は一人で生きてく。
そして何をしてでも、必ず家族にまた会うのだ。
「家へ。」
月島省吾がそう言うと、車はゆっくりと走り出した。
私はまだ見ぬ新居がどんな家なのか考えて、とても憂鬱な気分になった。
きっと小さなワンルームかなんかだろうけれど、それでもこうして家を用意して貰えただけ感謝しなくちゃいけない。
車がどこに向かっているのか全く分からなかったけれど、暫く走ると私は何故か見覚えのある駅が自分の視界に映った気がした。
咄嗟に窓の外を食い入るように見る私に、月島省吾はこう言った。
「学校に近いほうが良いと思ってな。」
そう、見覚えのあるその駅は学校のある駅だった。
車は更に和也や凛の住む住宅街の奥へと進んでいった。
大きな屋敷が軒を連ねるその場所は、明らかに高級住宅街だ。
そんな所に収入の無い私が住めるわけがない。
私は焦って月島省吾の顔を見たけれど、その人は顔色一つ変えなかった。
一体何処に向かっているのだろうと、私は若干焦り始めた。
真っ直ぐ退屈そうに前を見つめる月島省吾の横顔が、何だか急に怖くなった。