叶う。 Chapter2
問題は両手に出来た傷だ。
ママや先生には酷く転んだって誤魔化したけれど、病院で色々と検査されると、暴れまわったのがバレてしまうかもしれない。
なんとか検査をしばらく先伸ばしにしなければ。
まぁ、どれも浅い傷だから、そこまで心配はいらないけれど、念には念を入れておかないと。
ママの車の助手席に大人しく座りながら、私はそんな事を考えた。
「アンナ?」
「なぁに?ママ?」
「お腹空いてない?」
「うん、まだ大丈夫だよ。」
「…そう?じゃあ、気分転換にどこか行きましょうか?」
「うん、ママ?」
「うん?」
「美容室に行きたい!」
「あら、良いわね!じゃあ一緒に行きましょう。」
「ママと一緒に美容院行けるの嬉しい!」
私がそう言うと、ママは信号で停まった瞬間に私をちらりと見る。
そして、優しく笑った。
「ごめんね、アンナ。何だかアンナがアンナじゃないみたいで、慣れないのよ。だけど、心配しないでね。何があってもママはアンナの味方だからね。」
「うん、大丈夫だよママ。私、ママの事が大好きなの。」
私がそう言うと、ママは運転しながらもにっこりと笑った。
私はその笑顔を見て満足だった。
きっとあの子はこんな簡単に人をおだてる事すら、ろくに出来なかったんだろう。