叶う。 Chapter2
「それで、ね……ある時、樹ってさっきの男に声かけられたの。樹は私の地元の先輩で、あの辺一帯で知らない人が居ないくらい、悪い意味で有名なの。」
「……うん。」
「最初は本当に優しくて、私も学校で嫌な目に合ってる事とか、たくさん相談に乗ってくれたり、助けてくれたりしてて、私も馬鹿だから、そんな樹の事がいつの間にか好きになってた。」
「……うん。」
私は凛の言いたい事は何となく理解出来た。
人間、弱っている時ほど周りが見えなくなってしまうし、物事の善悪を認識することが難しくなる。
「……軽蔑されるかもしれないけど……。もう隠すのも嫌だからかなうには正直に話すけど……私ね、樹に言われた通りに、身体売ってた。」
凛はそう言って、瞳を潤ませた。
「……軽蔑なんてしないよ。凛は何があっても凛でしょ?」
私が静かにそう言うと、凛の瞳から涙が流れ落ちた。
だけれど、凛はそのまま話し続けた。
「それで、樹にお金渡してた。樹がそのお金をどうしてたかなんて、どうでも良かったの。ただ、樹のおかげで、学校でも外でも、私に嫌がらせしてきた連中は樹に怯えて関わって来る事もなくなった……。」
「……うん。」
「自分が樹にとって、都合が良い女だって事くらい分かってた。だけど、樹から離れるのが怖かったの……」