叶う。 Chapter2




「いらっしゃいませ。」


ママの行き付けのこのサロンは、近所でも有名な高級店だ。

私も何度かママに連れられてやって来た事がある。
だけれど、あの子はいつも毛先を揃える程度しかしなかった。

完全予約制だけれど、ママはいつも顔パスだ。


「月島さん、こんにちは。」


ママの担当のこの店の店長は、いつもにこやかにそう言って挨拶をする。

少し華奢だけれど、きっと女に不自由してなさそうなその容姿に、一度くらい触れてみたいと思う。


「今日はいかが致しましょう?」

「今日は娘の髪をお願い。私は良いわ。」


そう言えば、先週ママがこのサロンに行ったばかりだと言う事を思い出した。

店長さんが私を見る。


「ねぇ、ママ?髪を染めても良い?」

「うん?」

「髪を染めて切りたいの。」

「そうなの?学校大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ。」

「……それなら良いわ。好きなようにして貰いなさい。」


ママは笑顔でそう言って、鞄から携帯を取り出した。


「じゃあ、アンナちゃん此方にどうぞ。」

店長さんに連れられて席に着く。

鏡越しにちらりとママを見ると、ママはどうやらネイルをやって貰うみたいだ。

私もネイルをしたいけれど、とりあえずこの髪を何とかするのが先決だった。




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