叶う。 Chapter2




寒いから正直早く迎えに来て欲しかったけれど、相当待ちわびて居たのか、樹は直ぐに現れた。

コンビニの向かい側にある薄暗い細い通りから、姿を現した樹は遠目でも分かるくらいご機嫌斜めな様子だった。
その道に居た若者達は、樹の姿を見ると自然と頭を下げて道を開ける。

その威圧的な雰囲気と、周りを寄せ付けないオーラだけでも大したものだと思う。

私はそんな樹に、極上の笑顔で手を振ってみた。


「おせぇんだよ。」

樹は私の目の前にやって来ると、私を睨みながら見下ろしてそんな事を言ったけれど、なぜか機嫌は治ったようだ。

「だから、ごめんって言ったでしょ?」

私はそう言って、樹の腕に自分の腕を絡めた。
触りたくはないけれど、怒らせたくもないので、自分から引っ付いた。

「どこか暖かいところに連れて行って。」

そう言ってその腕に頭を寄せると、自分でも気分が悪くなるような台詞を吐き出す。

「お前、全然反省してねぇな?」

樹が吐き捨てるようにそう言ったので、私は上目遣いでニッコリと笑った。

一瞬、樹が怒るかと思ったけれど、視線が合うと樹は私を見てあの厭らしい笑みを浮かべてこう言った。


「やっぱお前、面白れぇ。」


私はその答えで充分満足だった。
これで樹の機嫌は治ったし、馬鹿なこの人は私の事に全く気付いてない。

私は心の中で、シオンにこの光景を見せたらどんな反応をするのか楽しみで仕方なかった。




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