叶う。 Chapter2
樹の叫び声は、この煩い空間では誰の耳にも届かないだろう。
凛の声が誰にも届かなかったように。
そして私の声が誰にも届かなかったように。
一瞬だけ、連れ去られる樹と視線が合った。
恐怖と、絶望と、助けて欲しいという願いが込められたその瞳の色に、何故かほんの少しだけ胸がチクリとしたけれど、私はそれに気付かない振りをした。
後何人、その瞳を見なくてはいけないのだろうか。
私は両目を閉じると、それを頭から追い出した。
私の恨みはこんなんじゃ物足りない。
もっと、もっと、絶望に歪む瞳を見なければ、私の恨みは晴れる事はないのだ。
「……ねぇ、樹をどうするの?」
私はシオンだけに聞こえるように、小さくそう言った。
「どうして欲しい?」
シオンは楽しそうにそんな事を言った。
私は何て答えたら良いのか分からなかったから、黙ったままシオンの指に自分の指を絡めた。
「……お前が望むなら、殺すか?」
シオンはごく当たり前のように、そう言った。
それはシオンには、そう言う事が出来るって事だ。
簡単にそんな事を言うなんて、普通じゃない。
人を殺すなんて、そんな簡単に出来る訳がない。
私は視線を上げてシオンを見た。
その冷めた蒼い瞳は、決して冗談で言っている訳じゃないという事を私に教えてくれた。
その瞬間、私は一瞬にして理解した。