叶う。 Chapter2




樹の叫び声は、この煩い空間では誰の耳にも届かないだろう。

凛の声が誰にも届かなかったように。

そして私の声が誰にも届かなかったように。

一瞬だけ、連れ去られる樹と視線が合った。
恐怖と、絶望と、助けて欲しいという願いが込められたその瞳の色に、何故かほんの少しだけ胸がチクリとしたけれど、私はそれに気付かない振りをした。

後何人、その瞳を見なくてはいけないのだろうか。

私は両目を閉じると、それを頭から追い出した。

私の恨みはこんなんじゃ物足りない。
もっと、もっと、絶望に歪む瞳を見なければ、私の恨みは晴れる事はないのだ。

「……ねぇ、樹をどうするの?」

私はシオンだけに聞こえるように、小さくそう言った。

「どうして欲しい?」

シオンは楽しそうにそんな事を言った。

私は何て答えたら良いのか分からなかったから、黙ったままシオンの指に自分の指を絡めた。

「……お前が望むなら、殺すか?」

シオンはごく当たり前のように、そう言った。
それはシオンには、そう言う事が出来るって事だ。

簡単にそんな事を言うなんて、普通じゃない。
人を殺すなんて、そんな簡単に出来る訳がない。

私は視線を上げてシオンを見た。
その冷めた蒼い瞳は、決して冗談で言っている訳じゃないという事を私に教えてくれた。


その瞬間、私は一瞬にして理解した。




< 95 / 458 >

この作品をシェア

pagetop