夜空の琥珀
 
 突然、若葉くんの右手が伸びてくる。

 脊髄が反射の信号を出そうとする頃、その手はすでに私を捉えていた。

 長い指が私の前髪を掻き上げ、手のひらが額に触れる。

 同じようにして、若葉くん自身の額にもう一方を当てる。



「熱はないみたいだけど……」



 私はといえば、額に感じる手のひらの、予想以上の大きさと温かさに固まっていた。

 顔が熱くなってきたのを、若葉くんは律儀にも見逃さなかった。



「頬が紅潮してる。これから熱が出るかもしれない。早めに休んだほうがいいよ!」



 ガタリと椅子を揺らし、立ち上がる若葉くん。

 このままでは有無を言わさず保健室に連れて行かれそうな勢いだ。



「いやいやいや! 気のせいだって! 見てほらピンピンしてるでしょ!」


「今は平気でも、後からキツくなってくることもあるだろうし……」



 本気で心配してくれるから、冗談抜きで胸が痛くなった。
 
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