夜空の琥珀
「紅林さん」
「は、はいぃいっ!」
「今日……おかしくない?」
「き、気のせいじゃないかな! 私がおかしいのなんてしょっちゅうじゃない。気にしなくてもいいと思うよ!」
作り笑いしながら一歩後退したとき、
「――どうして逃げるの?」
明らかに、彼の声音が変わった。
逃げる……私が?
「やだなー若葉くん! どうして逃げる必要があるの?」
若葉くんは何も言わず私を見つめている。
疑われているのだろうか。
そんな不安が、私に新たな嘘をつかせる。
「ちょっと用事があって。先に教室帰ってて? じゃあ……」
若葉くんに背を向ける。
とたん、唇を引き結んだ。
(……卑怯だ、私)
それなのに足は止まってくれなくて、一歩を踏み出そうとする――