夜空の琥珀
「言いたくないなら言わなくてもいい。僕はもうそれを問い詰めたりしない。
だけど……ひとつだけ、僕のワガママを聞いてくれる?」
若葉くんの手が伸びてきて、私の手に触れた。
すぐにもう片方の手も触れてきて、両方の手で私の手をそっと包み込んだ。
「……離れて行かないで」
若葉くんの手は大きくて、まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れている。
「ほんの少し、今日だけでいい。一緒にいて。できるだけ僕の傍を離れないで」
「若葉、くん?」
「そうすれば……僕は僕のままでいられる気がするから」
ギュッと、包み込む手に力が入った。
彼が何を言っているのかわからない。
そもそも私はなぜ若葉くんから逃げたのか、それすらもわかっていなかった。
頭が混乱して、わけもわからないままうなずいてしまった。
若葉くんは微笑む。心の底から。
このとき私が感じたのは、若葉くんが安心してくれたんだなぁということと、何か大切なものを受け止め損ねたような、そんな気持ちだった。