夜空の琥珀
 
『調子に乗るなよ。妄想はテメェの脳内満足だけにしとけ。――失せろ』



 ……ごめんね若葉くん。

 またあなたの気持ちを考えないで行動しちゃうかもしれないけど、これだけは証明させて。


 心を決め……私は竹刀を下ろす。



「……何の真似だ」



 眉をひそめる長谷川先輩を、真っ直ぐ見据える。



「私は、暴力は振るわない」


「この状況下でもか? 頭がイカレてんじゃないのか?」


「何と言われようが、私は決して暴力は振るわない」



 冷酷かもしれない。

 彼ほどの人なら、あのときあの男を打ちのめすことなど造作もないはずだった。
 

 暴力で相手を打ち負かすのは簡単なこと。


 でも彼は力に頼ってなんかなかった。

 ただ強い言葉だけを相手に返す。


 怖がられてもいい。

 怯え、逃げ出してくれたら上等じゃないか。

 理不尽な暴力で傷つかずに済むのだから――。


 冷酷でも何でもない。

 それは相手を傷つけないための、優しさだった。

 その優しさこそが本当の強さで、私が憧れたものなんだ。
 
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