課長さんはイジワル2
席に戻ると、佐久間課長は会議に行ったみたいでいない。

はぁ~~~。

ほんっと、疲れるよ!



今年、トレーディング部に配属されたのは私を含めて3人。

他の同期が羨ましがる。

「いいなぁ~、愛。佐久間課長の下で働けるなんて!」

ちっとも良くない。

佐久間要(かなめ)課長は入社10年目の34歳。

スラリとした長身(推定178cm)に、男とは思えないくらい、キメ細やかで美しい肌。

ソフトでまろやかな語り口で、人当たりもメチャクチャ良いから(注:私以外)女子に大人気。


でも、この人、私には厳し過ぎるし、いちいち人の行動に干渉してくるし。

特にムカつくのは、何でも見透かしてますって感じのメガネの奥のあの瞳。


ああん、もう!イライラするっ!


ショートの髪をぐしゃぐしゃに掻いていると、ディーラーの山田主任から飲み会のメールが届く。

「本日、新人安田の大商い祝い!女子は絶対参加。集合7時。鳥安にて。by山田」


強制かよ!



そして、3時間後。

私は疲れた体を引き摺って、頑張って飲み会に出る。

新人の私は毎朝5時起きで、朝の準備をしている。

朝の前場が開く頃にはクタクタだ。

だから、一刻も早く帰って寝たいのに……。

その上、飲み会に行くと私の隣には当然のように佐久間課長が座ってる!

「おい、お前。このオーダー追加して」

課長が私にオーダーを回す。

「あのぉ、いつか言おう言おうと思ってたんですが……。

私には『杉原愛(すぎはらあい)』って言うちゃんとした名前があるんです。

『おい』とか『お前』とかじゃなくて、『杉原』とかで呼んでもらえると嬉しいのですが……」

「へぇ。一人前に仕事も出来ないのに?」

「それと名前とどう関係が……」

「大アリだね。それに、お前を『杉原』って呼ぶの、ヤなんだよ」


えっ?!

なんで?

「どうしてですか?」

「あれっ?誰だよ、アワビなんて注文したヤツ?」

私の質問を課長はガン無視する。






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