課長さんはイジワル2

第4節 寄り添っていたい

『覚悟』?


『覚悟』って、何の?



とっさに扉横に身を隠し、二人の会話に耳をそばだてる。


「覚悟なんて……できるもんじゃないですよ。

死の直前に全てを話して逝った母を憎みました。

いっそのこと、父が亡くなった本当の病名なんて何も語らずに墓場まで持って行ってくれたら良かったのに……と」


本当の病名?


そっと部屋の中を覗き込むけど、海江田医師の後姿が邪魔して課長が見えない。


ただ、不吉な予感に胸の鼓動が速くなる。


「正直な話し、今だって怖いですよ。

生きたまま、ただ、天井の一点を見つめるだけで、気が狂うでもなく、ただ体が衰えて死を待つだけなんて……。

父はALSを発症して2年と持たなかった」


何?


……死?


エーエル、エス?


2年と持たない?


課長の言っている言葉がまるで現実に話されていることだなんて思えなくて……。


体に力が入らなくて、その場にへたり込んでしまう。


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