課長さんはイジワル2
「俺の……」


課長の抱きしめる腕がそっと私を引き離す。


「俺の父親は商社マンなんかじゃない。俺の父親は……『死の商人』だったんだ」

「『死の……商人』?」


って、何?

課長の言ってる意味が分からなくて首を傾げる。


「紛争国へ赴いては、武器を売ってた。敵味方関係なく」

「敵……味方……関係なく?」

「そう。父親の売った武器で何百……いや、何千、何万と言う人間が死んだ…」

「死んだって……だって、お父さんは、商社マンだって……澤村社長が……」

「表向きはね。でも売っていたのは『武器』だったんだ」

「そんな……っ!」

「俺も社会人になってから知ったんだ。
それまでは、俺にとって父親は自慢の父親だった。
優しくて頭も良くて、妻想いの優しい父親で……。
そして、病気になってからは、体が動けなくなってもボランティアで、世界の人たちに尽くして……全てが理想の父親だったんだ」

「課長……」

「親父が亡くなって暫くして、母さんから親父が亡くなった原因は脳腫瘍だって聞いて……。だから、俺は父親のような病気で亡くなる人を無くしたくて、大学を出てから製薬会社に入ったんだ。脳腫瘍の研究に力を入れている製薬会社に。なのに……っ」

声を詰まらせたまま、課長の手が小刻みに震えている。

でも、課長のお父さんは脳腫瘍なんかじゃ無かったんだ……。

海江田医師の友人だと言う当時の先生のお父さんを見ていた医師から、退院してから詳しく聞いた。

どうしても本当のことを告げられなかった課長のお母さんの思いに、胸が痛くなる。

私はその手を包み込むと課長を見つめた。

「ごめん、愛。大丈夫だよ」

課長が優しく私の頬を撫でる。

「……その製薬会社に入って、親父を良く知る人物から本当の父の姿を聞いて愕然としたよ。まさか、人殺しに加担してたなんて……」


課長の私の頬に置いた手が震える。




< 417 / 522 >

この作品をシェア

pagetop