課長さんはイジワル2
「あんなに治療費がかかるなんて、課長、一言も言ってくれなかった」

「あれは……」

「ひどいよ」

「……ごめん。もしかして、そのことでも泣いてる?」


課長の胸から頭を起こすと小さく頷く。


「そっかぁ……」

しばらく課長は考え込んだ後で

「悪い。俺のかばん、ここに持ってきてもらってもいいかな?」

と私の髪にそっと触れる。


「かばん、濡れてるよ」

「いい。持ってきて」


課長に頼まれたかばんをリビングから持ってくる。


「その中の、内ポケットの中に黒手帳が入ってるから。それを出してもらってもいいかな?」

「黒手帳って……」


あんなに見たかった黒手帳だけど、私が触ってもいいのかどうか戸惑う。


「愛なら触ってもいいよ。とにかく出して」


言われるままにかばんの内ポケットのチャックを横にスライドし、中から黒手帳を取り出す。


「その手帳の一番最後のフォルダーに銀行の通帳があるから出して」

「銀行の通帳なんて私が触ってもいいの?」

「だから、いいんだって」


課長が苦笑いする。




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