課長さんはイジワル2
「父さんはいつも誠実にビジネスをしていたらしいから、澤村社長から聞いたことによれば、その汚名はやがて雪ぐことができたらしいんだ。

でも、聞いたときは『死の商人』に誠実も何もないだろう!って思ったよ」


誠実な死の商人。

確かに、何か変な感じ。


「生と死が隣り合わせだったからこそ、父さんの世界では『信頼』が何よりも大切だったんだ。

父さんはその持ち前の誠実さと頭の回転の素早さで生き延びた。

でも、皮肉だよな。それなのに、結局は……」


「結局は?」



ALSで亡くなった。

そうなんでしょ?課長。

言葉を待つ私に課長が口を開く。


「……その黒手帳の一番最後のフォルダーの中にある通帳の最後のページを開いてくれる?」

「えっ?!ああ……はい」

……課長、話題を変えた。
私じゃ、話せない?
頼りにならない?
本当のこと、死ぬまで言わないつもり?

涙で滲む私のパラパラと通帳をめくる手が、ある数字を目にして止まる。


「か…………課長……これは……」


債券というマネーゲームの中でしか見たことのなかった億単位の数字が、今、手のひらの上の通帳の中からリアルに現れて、全身の鳥肌が立つ。


「父さんが遺した遺産だよ。それでもほんの一部。人を殺して築き上げた財産だ」


私は腰を抜かしてその場にへたりこむ。



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